世の中のいろいろなことに対して、少しばかり主張してみます。


by Hi-Zettaisha
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情報収集・政策決定能力を試された日本

前のエントリーの続きです。

東シナ海航行禁止海域設定問題。
これの本質は、日本政府の「大失態」が明らかになったこと。
そう言っても過言ではありません。

中国の言い分「技術的な誤り」。
この言葉を聞いて、一昨年11月に起きた、中国海軍原子力潜水艦の領海侵犯事件を連想した方も多いのではないでしょうか。
あの事件が本当に事故だったとは信じ難いように、今回のホームページでの航行禁止海域の発表も、日本政府の公式見解のように「単なるミス」とは思えないのが正直なところ。
これは中国政府が、日本政府の情報収集能力、それと情報伝達から政策決定に至るまでの処理速度を測るために蒔いた「餌」のように思えます。



「仮想敵国」という言葉があります。
例え普段、自国と友好関係にある国でも、自国に敵対的な政権が成立する可能性はゼロではありません。
もしその国が自国と敵対し、自国に武力による威嚇や侵攻を始めたらお手上げでは、国は「国民の生命と財産を守る」という責務を果たすことができません。
そこで、自国に対して脅威となり得る国を「仮に敵と見做して」、国防政策を考えるわけです。
国防(国家・国土・国民の防衛)を考える時の材料として「仮に敵と見做す国」、それが仮想敵国です。

日本の仮想敵国は、その能力と意図、可能性を考えると、一に中国、二に北朝鮮/韓国となるでしょう。
いずれも(国内的な理由からとはいえ)日本を敵視する政策を取っています。
中国の最近の軍拡傾向とその内容を見れば、能力は「脅威とならない」レベルを既に超えています。
東シナ海では、既に中国と日本の利害が衝突しています。
中国政府は、日本を排除したいという意図を、当然持っているでしょう。
日本にとって、最大の脅威となっていると言っても過言ではありません。

そう言うと、「アメリカはどうだ」と言う声が必ず上がります。
しかし、日本が軍事的にアメリカの保護国に甘んじている現状、言い換えればアメリカに軍事的に従属せざるを得ない現状では、アメリカと敵対すると日本の国防が成立しません。
つまり「アメリカを仮想敵国とする」、それはあり得ない前提条件なのです。
その理由が、大東亜戦争敗戦後にGHQによって進められた日本の非軍事化政策、その手段として現在も機能している日本国憲法第9条2項にあることは言うまでもありません。

話が外れました。
それでは、中国から見た場合の仮想敵国はどこでしょう?
自国と利害が衝突する国、そして自国の軍事力で圧倒できない程度の力を持つ国、そして歴史的経緯から警戒せざるを得ない国。
日本は間違いなく、中国の仮想敵国として想定されています。
その仮想敵国・日本が、自国の行動をどう監視しているのか、どのような情報をチェックしているのか。
それを確認するための「餌」として、日本側に事前に通告することも無く、海事局のホームページにひっそりと情報を出してみた
そんなところではないでしょうか?

結果はと言えば、日本が「餌」に気が付くのに2週間以上、「餌」に食い付く(外交チャンネルで問い合わせてくる)までに更に3週間近く掛かりました。
中国に対して、「懸念の表明」という国家の意思を示すまでには更に数日を要しています。
中国からすれば、充分な時間的余裕と映るのではないでしょうか。

阪神大震災の時もそうでしたが、日本では何か有るたびに「危機管理能力の向上」が叫ばれています。
しかし実態はこの有様。情けなくなってきます。

「有事の情報収集/処理能力を隠すため、わざとスローモーな対応をした」のなら救いもあります。
しかし、中国当局が「航行禁止海域」を宣言するということは、日本の船舶がその海域に入った時に危険に直面する可能性があるということです。
日本政府は自国民保護という責務を果たすため、自国船舶への情報提供を迅速に行う必要があります。
その情報提供に1カ月半近く掛かっている以上、「わざと」は考えられません。
やはり、情報収集/処理能力に弱点がある、そう考えざるを得ないのです。

問題は、この日本政府の遅い対応が、中国にどういう“メッセージ”を伝えたことになるのか、です。

小泉政権以前の日本政府は、何度も中国に“誤ったメッセージ”を伝えていました。
中国との揉め事を嫌い、東シナ海での自国企業の試掘を許しません。
尖閣諸島への民間人の立ち入りを許しません。
李登輝台湾総統(当時)の日本訪問を許しません。
あくまでも“日中友好”第一。
その結果が、現在の東シナ海の状況です。

「既成事実を作り、否応なく認めさせる」。
中国共産党政権のよく使う手法ですが、東シナ海のガス田/油田でも、常に先手を打っているのは中国政府。
採掘施設という構造物を作り、生産という経済活動を行い、艦船を遊弋させることで「その場所に“中国”が存在する」ことを示威しています。
その場所が例え、日本の主張する排他的経済水域(EEZ)であろうとも、第三者には「中国の勢力圏」と映ります。
国際的に認められてしまえば、それが中国の絶対的な強みになります。

中国の次の目標として思い付くのは、やはり尖閣諸島。
尖閣諸島に「“中国”が存在する」ことは、中国が先島諸島、そして琉球列島全域、更に日本全土への影響力を持つために必要な手順の一つです。
さすがに南沙諸島(他国軍が展開していない島に、手当たり次第に軍を送り込んで駐屯させ、領有権を主張)や、西沙諸島(パリ和平協定で米軍が南ベトナムから撤退後、島に駐屯していた南ベトナム軍を撃滅して全域を支配)のような手法は取れないでしょうが、以下の手法は可能かもしれません。
  1. 中国/香港の民間人が、密かに魚釣島に上陸してキャンプを設営する。乗ってきた船も接岸させる。
    (いつもなら有る、事前の声明は無し)
  2. 船がなぜか爆発・炎上し、上陸した人達が無線で母国政府に救助を要請する。
    「日本海上保安庁が来た場合は、武器で応戦する」と(なぜか日本語で)付け加える(民間人なのに、なぜか武装していると示唆する)。
  3. 日本政府は数日議論した後、海上保安庁の巡視船を差し向ける決定を行うが、先に中国海軍が「自国民救助のため」として魚釣島に上陸、そのまま留まる。
  4. ようやく海上保安庁、及び海上自衛隊が現場に派遣されるも、武力衝突を恐れる世論を気にする政府の意向で、中国海軍に対して武力を行使せず、にらみ合いが続く。
  5. 中国海軍の魚釣島駐留部隊が飛行場を設営し、空路での補給が可能となる。
  6. 輸送機部隊が護衛機無しで中国本土より飛来。政府は航空自衛隊に、非武装の輸送機を撃墜する命令を出すことができず、空路は事実上確立する。
  7. 国際連合が調停に乗り出すも、常任理事国たる中国が従来の領有権主張を繰り返すだけで進展無し。
  8. 事実上、中国の魚釣島に対する領有権が確立する。
地元である沖縄県当局は、中国原潜領海侵犯事件への対応でも判るように、中国に対しては融和姿勢で臨むでしょう。
アメリカ政府は、時の政府の姿勢にもよりますが、中国政府が沖縄の米軍基地の安全を保障さえすれば、特には動かないかもしれません。
そうすると、日本政府は打つ手が無くなります。

このシナリオを阻止するには、どうすれば良いのでしょうか?
諸外国に“正しいメッセージ”を送ればいいのです。
まず、尖閣諸島政策については、このようなものが考えられるでしょう。
  • 尖閣諸島での民間人の居住・経済活動の許可。
  • 下地島空港への航空自衛隊の展開と、先島諸島への陸上自衛隊の駐屯。
  • 更に海上自衛隊の、領海侵犯阻止活動への参加。
どれも政治的にはハードルの高いものばかりですが、実現できれば、中国が武力行使を行う際のリスクを高め、結果的に日中の武力衝突を回避する有効な手段となります。
現時点では、無い物ねだりのような気が若干、しますが(苦笑)

そして、日本政府の姿勢が大事です。
全ての兆候を見逃さない、情報収集/分析能力を発揮するのは官僚の仕事。
そして得た情報から、直ちに政策を立案し、実行するのは政治家の仕事です。
政治家には、リスクを負う覚悟を持った決断能力が必要です。
しかも普段から、その能力を諸外国に見せつける必要があります。
理想論でしょうが、現状のように、情報収集から行動までに1カ月も掛かっているようでは駄目です。

今までの日本の政治家に一番欠けていたのが、世論を敵に回しても、自分が「国民のためになる」と思う政策を立案し、実行する覚悟と能力だと私は思います。
その能力を備えた政治家の登場を、待望します。

※西沙諸島や南沙諸島については、ホームページ「ベトナムデジタルギャラリー」の「南シナ海の領土紛争」が、中国の領土拡張の手法についてはブログ「待避禁止!」の今年3月18日のエントリーが参考になります。
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by Hi-Zettaisha | 2006-04-21 23:13 | 政治・軍事・外交